【Mstar-Archive-261008】 SUNMIの「You Can't Sit With Us」ほか全5曲
■ You Can't Sit With Us ― 華やかなシンセサウンドと対照的な、ソンミのクールな歌声 by SUNMI

ソンミの「You Can't Sit With Us」は、2021年にリリースされたミニアルバム『1/6』のタイトル曲です。145 BPMの軽快なビートに、80年代を思わせるシンセポップとダンスポップの要素を取り入れた、疾走感あふれるナンバーです。冒頭から厚みのあるシンセサイザーと力強いビートが耳を引きますが、華やかなサウンドの中で際立つソンミの歌声にも注目したいところです。
彼女のボーカルは、声量で圧倒するというより、息を含んだ軽やかな声質と、力みのない歌い方が持ち味です。一方、フレーズの語尾は歯切れよく処理され、淡々とした歌い回しの中にも独特の存在感が感じられます。特にサビでは、明るく弾ける伴奏に対して、どこか冷めたような表情を崩しません。この温度差が、楽曲に単なる爽快感とは異なる魅力を与えています。NMEも、本作の80年代風のサウンドとソンミのボーカルが生み出す独特のエネルギーに注目しています。
演奏面では、きらびやかなシンセサイザーに重厚なキックと細かなリズムが重なり、曲全体を勢いよく前進させます。さらに、2番に登場する英語のラップパートが展開に変化を加え、疾走感をいっそう際立たせています。サウンドは陽気で開放的なのに、歌い手の態度はどこか冷静。この対照的な雰囲気こそ、本作の面白さです。華やかなアレンジに合わせて感情を大きく表現するのではなく、あえて抑制の効いた歌い方で曲を引き締めるソンミ。派手なサウンドの中でも自分らしさを失わない、そのクールなボーカルが楽曲の個性を形作っています。

■ One & Only ― 繊細な歌声と音の余白が織りなす、ゴウォンの幻想的な世界 by LOONA (GoWon)

LOONA(今月の少女)のゴウォンによるソロ曲「One & Only」は、2018年に公開された楽曲です。ダンスポップを軸に、コンテンポラリーR&Bやフューチャーベース、シンセポップの要素を取り入れ、幻想的なサウンドに仕上げています。この曲の魅力は、音を幾重にも重ねて迫力を生み出すのではなく、余白を生かしながら独特の空気感を作り出している点にあります。
シンセサイザーを中心とした伴奏の中を、ゴウォンの透明感ある歌声が軽やかに漂います。声量や高音の迫力を前面に押し出すタイプのボーカルではなく、息を含んだ繊細な声質と柔らかな歌い回しによって、曲のムードを丁寧に形作っています。短いフレーズに交じる息づかいや、力を抜いた発声も印象的です。歌唱技術を誇示するのではなく、声そのものの質感を生かすことで、メロディーとともに歌声の響きが記憶に残ります。
アレンジとプログラミングにはダーレン・エリス・スミス(Darren Ellis Smith)が携わっています。クレジットにはギター、キーボード、ドラムプログラミングなどの要素も確認できますが、個々の楽器が前面に出るというより、電子音を中心としたサウンドに溶け込み、全体の質感を整えています。音が互いに適度な距離を保っているため、ゴウォンの声も単に伴奏に乗るのではなく、楽曲の空間を構成する一つの要素として響きます。
「One & Only」の魅力は、圧倒的な歌唱力を誇示することではありません。繊細で儚げな声をあえて隠さず、その個性を楽曲全体の幻想的な雰囲気へと結びつけている点にあります。静かな余韻を残す歌声と、空間を生かしたアレンジ。その組み合わせが、ゴウォンならではの世界観を生み出しています。

■ Karma ― 畳みかけるフレーズとビートが生み出す、BLACKSWANのパフォーマンス力

BLACKSWANの「Karma」は、2023年5月にリリースされたシングルアルバム『That Karma』のタイトル曲です。作曲にはアリナ・スミス(Alina Smith)、ジゼル・アセベド(Gisselle Acevedo)、シャーク(Shark)、A・ライト(A Wright)、ジェディ(JEDI)が参加し、編曲はシャーク、A・ライト、ジェディが担当しています。
この曲のボーカルは、長いフレーズを伸びやかに歌い上げるというより、短いフレーズを次々と受け渡しながら勢いを生み出すスタイルが特徴です。サビで繰り返される「Karma」というフレーズは、シンプルながら耳に残りやすく、楽曲のリズムを強く印象づけます。メンバーそれぞれの声をじっくり聴かせるというより、複数の声が連なり、一つの大きな流れを作り出している点に注目したいところです。
サウンドの中心となるのは、ビートとベース、そしてエレクトロニックな音色が生み出す推進力です。複雑な器楽演奏を聴かせるというより、リズムの強さとボーカルの切り替えによって楽曲を展開させています。DRミュージックも、本作をグループのパフォーマンス力を示す楽曲として紹介し、多国籍なメンバー構成を反映したインターナショナルなサウンドを打ち出しました。
実際に聴くと、ボーカルと振り付けを切り離して考えるのが難しいほど、声とビートが密接に結びついています。短く切る発音、畳みかけるフレーズ、身体を動かしたくなるリズム。それぞれが一体となり、ステージでのパフォーマンスを鮮明に印象づけます。繰り返される「Karma」も、単なる歌詞というより、ビートにアクセントを加えるリズムの一部として機能しています。歌声をメロディーの表現だけにとどめず、パフォーマンスを前進させる力へと変えている点に、BLACKSWANの個性が表れています。

■ Fire ― 荒々しいギターと突き抜ける高音がぶつかり合う、キヒョンのロックボーカル by KiHyun

キヒョンの「Fire」は、SBSドラマ『消防署の隣の警察署』のOST Part.1に収録された楽曲です。オルタナティブロックをベースにEDMの躍動感を取り入れ、緊張感と疾走感を前面に押し出しています。そのサウンドを牽引するのが、MONSTA Xのキヒョンによる力強いボーカルです。
彼の持ち味である伸びやかな高音と明瞭な発声は、この曲でいっそう際立っています。サビに向かって音域と声の勢いが増していく一方、激しいギターや電子音が重なる場面でも、音程や発音が明瞭に保たれているのが印象的です。普段の爽やかな歌声とは異なり、ここでは強い圧力を感じさせる歌い方が中心。それでも、ただ声を荒らげるのではなく、芯のある高音でメロディーをしっかりと押し出しています。
クレジットにはCUZDによるアレンジやキーボード、ハン・ドクヨンによるギター演奏が記載されています。ギターのざらついた音色がロックらしい荒々しさを生み出し、電子音と力強いドラムがさらにスピード感を加えます。その上をキヒョンの高音が突き抜けることで、楽曲全体が前へ前へと進んでいくような感覚が生まれます。
タイトルの「Fire」を連想させる熱量も、こうしたボーカルと演奏のぶつかり合いから生まれています。静かな展開から徐々に感情を高めるバラードとは異なり、冒頭から高い緊張感を保ち、キヒョンの声をその中心に据えた構成です。荒々しいサウンドに埋もれず、むしろその勢いを受け止めながら歌い切る。キヒョンの力強さと安定感が、ロックボーカルとしての魅力を存分に発揮した一曲です。

■ Kimochii ― 声だけでビートも遊び心も生み出す、ダルニのビートボックス by Dharni

ダルニ(Dharni)の「Kimochii」は、2024年2月29日に公開されたシングルです。約2分20秒という短い楽曲の中に、ヒューマンビートボックスならではの技術と遊び心が凝縮されています。ボーカルをダルニが単独で担当し、作曲にはダルニ、クレイハート(Clayheart)、シンゾ(Sinzo)が参加しています。
最大の特徴は、声と伴奏の境界が曖昧になっていることです。低く響く音はベースのように、鋭く短い発音はキックやスネアのように機能し、さらに多彩な口音や効果音が次々と重なります。一般的な歌のようにメロディーを歌うだけではなく、一人でリズムセクションから効果音までを作り出していく。その変化の速さと音色の豊かさが、聴く者を引き込みます。
ダルニは、グランド・ビートボックス・バトル(Grand Beatbox Battle)のソロ部門で2013年と2014年に連続優勝したアーティストです。Swissbeatboxも、彼を2年連続のGBBソロチャンピオンとして紹介しています。こうした実績を踏まえて聴くと、声の出し方や音の切り替えに込められた技術の高さが、より鮮明に伝わってきます。音節の長さや発音の形、息の強弱までもがリズムの素材となり、声そのものが一つの演奏手段として機能しているのです。
タイトルの「Kimochii」は、日本語の「気持ちいい」を連想させる言葉でもあり、楽曲には軽妙でユーモラスな雰囲気が漂います。技巧を見せつけるだけでなく、聴き手を楽しませる余裕があるのも魅力です。単に楽器の音を声で再現しているのではなく、声だからこそ生み出せる音色やリズムを自在に操っている。ボーカルと演奏の境界を軽やかに飛び越える、ビートボックスの面白さが詰まった一曲です。

■ 5曲が映し出す、ボーカルの多彩な可能性
今回取り上げた5曲は、ジャンルもサウンドも異なりますが、いずれもボーカルの個性が楽曲の印象を大きく左右しています。ソンミの「You Can't Sit With Us」では、華やかなシンセサウンドの中でクールな歌声が存在感を放ち、ゴウォンの「One & Only」では、繊細な声質と音の余白が幻想的な世界を作り出します。BLACKSWANの「Karma」は短いフレーズをビートに乗せてパフォーマンスの勢いを生み、キヒョンの「Fire」は力強い高音でロックサウンドを牽引。そしてダルニの「Kimochii」では、声がベースやドラム、効果音の役割まで担っています。
こうして聴き比べると、ボーカルの魅力は歌唱力や声量だけでは測れないことが分かります。声の質感によって歌い手のキャラクターを際立たせることもあれば、音の空間を形作ったり、リズムやパフォーマンスの推進力になったりすることもあります。さらには、声そのものを独立した楽器として扱う表現もあります。
同じ「歌う」という行為でも、楽曲によって声に求められる役割は大きく変わります。今回の5曲は、その多彩な可能性をそれぞれ異なるアプローチで聴かせてくれる作品群です。